のほりひがし。 東の感想ブログ

『にっぽん昆虫記』地を這うとめの半生を描いた重喜劇【あらすじ感想】

映画感想

 
『にっぽん昆虫記』を観てきました。

監督:今村昌平

1963年に公開された映画です。

実話を基に脚色を加えて製作され、公開当時は成人向けの作品として上映されていました。

主演を務めた左幸子は1964年開催の第14回ベルリン国際映画祭で

日本人初の最優秀女優賞を受賞された女優です。

 

『にっぽん昆虫記』のあらすじ

 
大正7年の冬、東北の農家で松木とめ(演:左幸子)は父の松木忠次(演:北村和夫)と母、松木えん(演:佐々木すみ江)の間に生まれました。

ですが結婚した時、えんはすでに妊娠8ヶ月であり

忠次はとめの本当の父親ではありませんでした。
 

母親が誰とでも寝る女性であることを知った幼いとめは、忠次とえんが夫婦なのかを疑うようになります。

それからとめと忠次の間には、親子の愛情ではない男女の関係ができつつありました。
 

やがて23歳になったとめは、家の借金のため地主の本田家に足入れ婚をさせられます。

翌年に彼女は三男の本田俊三(演:露口茂)との間に娘の信子(演:吉村実子)を出産しますが

その後、とめが本田家に戻ることはありませんでした。

 

『にっぽん昆虫記』の感想

あまりに酷なとめの半生

 
観ては止まったりを繰り返して進んでいった『にっぽん昆虫記』。

ぬるいところで生きてきた自分には、頭がすぐに追いつけないことの連続でした。
 

それらが大きな流れになって、とめの人生をつくっていきます。

抗うことのできない激流に、彼女自身飲み込まれながらも進んでいくしかないという。

彼女がどんな状況であろうと、カメラは間近でとめの姿を捕らえ続けていました。

・・・

一向に進む気配のない、崩れやすい土の傾斜。

そこで昆虫が脚をバタつかせている場面があります。

昆虫の姿はとめそのものでした。
 

空高く飛び立つ生き物ではない昆虫記の本作。

地面を這い、泥水をすする姿を肯定することも否定することもなく。

彼女の人生を波瀾万丈たらしめる出来事が次々と起きては移り変わっていきます。
 

その中で、たびたび挟まれる川柳の場を和ませる雰囲気に

沈下した心が浮上しては、また傾斜の砂に足を取られるような感情に浸ってました。

・・・

因果。血筋。

とめが母親から譲り受けていたサガ。

そしてとめが望まずとも信子へと受け継がれていたもの。

そういうものがありながらも、とめと信子のあり方には違うものがありました。

 

親子であるとめと信子の生き方の違い

 
とめにとって誰より愛していた異性は忠次だったと思います。

けど2人は父と娘でした。

普通の親子ならしないようなこともしていた2人ですが

それでも一線を越えることはありませんでした。

映っていないところで越えている可能性も無くはないけれど…。
 

忠次にとって、とめは神聖な存在に近かったのではと自分は捉えています。

少し発達に障害のある忠次ですが

彼のようにとめを愛した男性は他にいませんでした。

・・・

とめは信子が7歳の頃、彼女を忠次に預けて単身で上京します。

東京でいろんな男性と会うものの、忠次以上に彼女を愛した男性はおらず

またとめが心から満たされることはありませんでした。

・・・

一方で恋人のいた信子ですが

とめは恋人が本当に信子を愛しているのかを疑ります。

それはとめ自身が過去に裏切られてきたからでした。
 

信子はとめに比べて恵まれています。

それはとめがどんな方法であってもお金を稼いでいたため。

そして信子は大きな選択が迫られた時も

自分の叶えたいことや恋人の存在があり、揺らぐことがありませんでした。

そういう時に、本来の自分を保てる人は強かだと信子を見ていて思います。

・・・

またとめから信子に受け継がれたものがあったとしても

信子はとめと同じように地面の上を這うよりも

自分で耕し発展させていこうとする人でした。

なんなら耕すことは機械に任せて進めながら、その時間も恋人と幸せそうに愛を育んでしまう。

とめと信子で描かれる生き方の違いには、際立って見えるものがありました。

 

鬼と罵られたとめの本当の姿

 
とめはものすごく苦労して、お金を稼ぐために働いてきた女性です。

家族や親戚との関係が良好とはいえなくとも

忠次がとめの味方で、村にいた頃のとめは純粋な女性でした。
 

それでも当時から一部の人に鬼と罵られるような境遇にいたとめ。

ですがその時はとめが鬼と呼ばれる原因をつくろうとする外部に対して

彼女は反発し、抵抗しようとしていました。
 

それが上京してから月日が経ち、とめはすっかり別人に。

彼女はそこでも鬼と叫ばれるようになっていきます。

けどもう以前のように鬼になるまいとするとめは、いなくなっていました。

・・・

始めは抵抗していた世界にすっかり染まりきっていたとめ。

そして自分と同じ道に、信子が足を踏み込んでしまったと知った時の彼女の様子が、自分は一番強く残っています。

記事を書いている間、何度も浮かんできてました。
 

彼女はまごうことなき鬼になってしまった女性です。

けどこの作品は昆虫記。

とめに怒りを感じている人たちには鬼に見えている彼女ですが

違う視点で見ると、その幻は消えて

昆虫こそが本当の姿だったことを思い出します。

そうして終わり迎えては、また昆虫の歩く場面に戻りたくなる映画でした。

 

『にっぽん昆虫記』の配信一覧

 
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