【全巻あらすじ感想】『パイナップルARMY』戦闘インストラクター、ジェド・豪士の戦いの日々
こんにちはの東です。
今回は『パイナップルARMY』のことを書いていきます。
原作を工藤かずやさん
作画は浦沢直樹さんが担当。
『ビッグコミックオリジナル』にて
1985年から全8巻
文庫版では全6巻で連載されていました。
戦闘インストラクターとしての依頼を
受けながら、主人公が
たくさんの人と出会ったり
戦友と再会していく様子が描かれています。
ネタバレがあるので
それでも良い人だけ進んで下さい。
もくじ
あらすじ
ジェド・豪士は世界中を渡り
いくつもの戦闘を経験してきた元傭兵でした。
けどこれは過去のこと。
今の彼はというと
傭兵を引退して
民間人に戦い方を教える
戦闘インストラクターに。
彼に指導を求めて
色々な事情を抱えた人たちからの
依頼を受けていくことになります。
登場人物
■ジェド・豪士(ゴーシ)
元傭兵であり
今は民間軍事援助組織「CMA」の
戦闘インストラクターです。
たくさんの短編を通して
豪士がどういう人なのかがわかります。
釣りをしている時の彼は
もう夢中で楽しんでそうでした。
■サミュエル・ハリデー
豪士の元上官。
米軍時代一緒に
戦地へ向かった人物です。
おじいちゃんになった今でも
豪士からレクチャーを受けたり
1人で戦ったり。
まだまだ元気そうだった。
■ジャネット
豪士の戦友である狙撃手。
最初にウエディング姿で
銃を構えていたのが印象的でした。
1人目の夫は殺され
2人目の結婚式の時に
豪士に呼び出され。
戦いの中にいても怯まない
パワフルな女性です。
感想
文庫版全6巻の巻ごとに書いています。
1巻 戦闘インストラクターとしての日々
ジェド・豪士(ゴーシ)が戦闘を
レクチャーしている様子が
短編のようにして描かれています。
1話から読んだ方がいいのは
もちろんですが
どの話も独立していて
1話完結のお話が続いていきます。
傭兵を引退した豪士に
どうしてたくさんの依頼がくるのか。
教え子たちの実践で
戦う相手のほとんどが
豪士の名前を知っていました。
そして彼がどうして
民間軍事援助組織「CMA」で
戦闘の指導をしているのか。
依頼主を一人前の兵隊に
仕立てる仕事を
彼がどうして熱心にやっているのかが
早速分かってくる巻でした。
描かれているものは
どれもこれもが命懸けの戦いです。
依頼人は老若男女関係ありません。
1話目から、いきなり
父を亡くした娘4人からの依頼で始まります。
中にはぬいぐるみを
いつもだっこしている幼い子までいて。
そういう子も戦わなくちゃいけないのが悲しかったです。
けど民間人も戦い方を知らないといけない。
それがこの漫画に描かれている
アメリカの状況でした。
戦いの最中、その子が
手榴弾と間違えて
ぬいぐるみを投げちゃったり。
それを豪士がキレながらも
取り戻してきたところに
彼がどういう人なのかが表れていました。
レクチャーは無料じゃありません。
危険な分、お金が掛かっています。
けどボロボロになったぬいぐるみの
修理代は無料でしてくれた豪士。
縫い方がヘタくそと
お姉ちゃんたちには
言われながらも、受け取ったその子は
すごく嬉しそうでした。
結局、姉妹の父が殺されたのには
それだけの理由があってのことだったのです。
彼女たちのお父さんは
もう帰ってきません。
それでもほっこりする
シーンもありながら
豪士のレクチャーは続いていきます。
その後も、レクチャーのため
行った先には、豪士のことを
知る人物が敵味方関係なく
たくさん出てきます。
中には戦い方に覚えがあり
そこから豪士の名前を
思い出すような人もいました。
そんな戦闘のプロ相手に
戦わなければならず
いろんな人が豪士に助けを求めてきます。
けど彼は護衛ではなく
あくまで戦いの講師なのでした。
そして
・犯人がどんなに支持されている人でも
正義のために動く女性警部補
・息子の軽い発言から
爆弾犯に命を狙われることになった親子
・海兵隊時代の仲間が次々と殺されていく事件
・陰謀の重要データが入った
ディスクをかつての仲間たちと共に守る話
・豪士がレクチャーで、完璧を目指す理由。
過去、彼が子供の指導をしていた時の話や
彼を誤解し続け、豪士をクズだという人物との関係が。
彼を支持している人がいる分
批難している人も多そうでした。
・豪士の元上官である
サミュエル・ハリデーが依頼人のエピソードです。
おじいちゃんになった自分を
鍛え直して欲しいと
1週間の期限をつけた彼に、一体どんな理由があるのか。
・身近な人がいつでも
敵になり得るという豪士の住んでいる環境。
同じアパートで会えば、ご近所さん。
戦いの場で会えば、敵同士のお話。
などなど。
1冊だけでも、これだけの
話が収録されています。
引退後も、豪士の周りにはいつも戦いがありました。
彼はレクチャーをする日々を通して
この先どうなっていくのか。
豪士の命懸けな冒険とも言える
物語が描かれています。
2巻 傭兵を引退しても戦いの中に生きている豪士
続く豪士の戦闘インストラクターとしての日々。
彼は傭兵を引退したものの
今でも戦いの中に
自分を見出しているようでした。
2巻でも短編が続いていきます。
内容は1巻より専門的な話が多く
少し難しくなっていました。
そして彼が傭兵を引退した理由が描かれています。
インストラクターをして
戦闘に関わることで
過去、共に戦った人との再会が。
彼を知る人の多さや
豪士がプロ中のプロであること
そしてインストラクターとしても
既に有名であることが見られます。
彼が依頼で向かう先々
だいたい敵側も、その手の名高い人物ばかりでした。
豪士の頭の中には
分厚い管理ノートみたいなものでもあるのかな。
出てくる出てくる
敵の詳細プロフィール。
相手の得意とする部分や
弱点を把握することは必須です。
戦いは、武器や能力だけでなく
情報がカギを握っていました。
そのため豪士が
どういう人なのかを
知らない人たちは、彼を舐めてかかります。
知っている人たちはというと
最初から彼を
頼みの綱であるようにして接してきたり。
知っている人と知らない人では
まるで違うものでした。
傭兵を引退した豪士ですが
戦うことを引退するのは、当分先のよう。
彼の力を求めている人がいる限り
そして彼が生きている限り
終わりはなさそうです。
また、大きな戦争は
終わったかのように見えて
ずっと続いていました。
それが再び大きくなっているのが現実です。
自分にとっての毎日を生きながら
戦争から目を逸らさないことが
大切に感じていました。
『パイナップルARMY』は
平和に見える世界で
どれだけの争いが、日常的に
起きているのかを見ることになります。
豪士は毎日命懸けで
サポートをしていました。
そうした中で、生きている人と
同じ時代を生きていながら
何も知らず平和に暮らしている人もいる。
その様子を見ているようでした。
豪士が傭兵を引退したワケ
彼の元上官である
トーマス・フェルドマン大佐。
ある作戦に向かう
彼からの依頼を、豪士は受けることになります。
彼は、傭兵時代の豪士を知る
人物であり、引退前の
最後の戦いを共にした人でした。
この作戦は1巻で登場した
彼の仲間や、今は亡き戦友も参加していたもの。
豪士だけでなく、その作戦で
生き延びた人にとって
大きな傷を残すものになっていました。
大国のエゴのため
傭兵たちの命が失われていく様子が描かれています。
豪士の親友だったキース。
彼は親友であり片腕でもあり
部隊の中では救いにもなっていた人物です。
そんな彼や豪士たちを襲った
出来事が短編ながらも
彼や仲間の心に
どれだけ大きな傷を
残しているのかが分かるものでした。
3巻 戦い続けることで再会する、傭兵時代の人や過去の出来事
小説をマンガにしたみたいに
作り込まれている話が続いていきます。
そして込み入った話も
徐々に増えてきていました。
民間軍事支援組織である「CMA」を
通した依頼を、豪士が
引き受けていく物語ですが
だんだんと豪士が
事件に巻き込まれているように見えてきていました。
3巻では戦わないエピソードや
傭兵時代では未解決のままだった事件に
関わっていた人物との再会なども。
また彼が過去に体験したことが、覗ける巻です。
豪士には、戦場での知り合いが
たくさんいました。
傭兵時代に良くも悪くも
時間を共にしていた人
そして「CMA」の依頼を通じて
また新しい出会いにと。
こうして今も
いろんな場所へ行くことは
過去の出来事を振り返る
きっかけにもなっていたのです。
スイスのある町に依頼で寄った豪士。
けど到着後に、キャンセルが入り
予定が空白になってしまいます。
仕方なしに宿を借りようにも
どこにも空きがなく。
豪士がムシャクシャしていた時に
声をかけてくれたのは
ハンナという少女でした。
彼女は引っ越しが多く
父は人を避け、町から離れた
山奥にこもっている状態。
母はすでに亡くなっていました。
鉄砲鍛冶をしているという
父との対面は
豪士が傭兵時代の記憶を
遡るきっかけになります。
相手は、エルンスト・シュミット。
彼は対面してすぐ
豪士のことに気づいたようでした。
それはどちらにとっても辛く
豪士にとっては、怒りが湧き上がるもの。
シュミットは豪士と同じ部隊で
戦い、そして裏切った過去があったのです。
彼の裏切りで失われた命は
決して戻ることはありません。
けどシュミットの身に起きていたことを
知るのは、豪士にとって
意味のあるものでした。
ハンナがいたことで
再会した豪士とシュミット。
シュミットの過去を知った
豪士がどう思ったのかは描かれていません。
けどシュミットとハンナが
毎日しているお祈りの言葉に
豪士の名前が加わったのが、答えに感じていました。
4巻 色々な形の愛
4巻です。
ここでも豪士はたくさんの人と出会っていきます。
3巻までにも出ている
豪士の戦友ジャネットや
上官サミュエル・ハリデーたちとの
話がまた増えてきていました。
依頼をこなしたり
その時出会った人との短編とは違うストーリーに。
過去にあった出来事の
回想シーンが増えるほど
物語の愛着も増してきています。
そうでない短編では
ひとりで何かを背負っている
人たちを多く見ました。
愛しているからこそ
ひとりで戦ってきた人。
愛するものの為に決心して
ひとりで戦うことを選んだ人。
復讐に燃えていた心が
愛で鎮火し、元の姿を取り戻していった人。
酷いことをしていた間にも
わずかな良心を感じていた人。
築き上げてきたものの
全てを失くしたことで、愛に気づいた人。
友人のために自分の
これまでの人生を葬り去った人。
いろんな形の愛がありました。
たくさんの人やものに
囲まれていても、人それぞれ
孤独を抱えているのが分かります。
けど豪士との出会いが
彼らのそばにあった愛を
より大きくすることになっていました。
逆に、その出会いで
真実を知ることになり
愛する人に銃口を向けなければならないお話も。
全部がハッピーエンドではありません。
けどだからこそいいのです。
ここからはハッピーなお話を1つ。
米軍時代の上官である
ハリデーのため
豪士のしたサプライズにホクホクしていました。
その日はハリデーの除隊記念日。
40年在籍した軍を退役した日です。
そんな日に、彼はひとりぼっちで
思い出の地を訪れるっていう悲しい時間。
昔、同じ時間を
共に過ごした人たちは
誰1人、ハリデーのお祝いをしてはくれませんでした。笑
おじいちゃんは1人ぷんすか。
少しの寂しさを抱えながらも
トラブルに巻き込まれた女性のため
屈強な男と戦う展開が待っています。
栄光は過去にあると
後ろしか見ていなかった彼が
未来に目を向けるきっかけになるものでした。
1人を味わい
昔の自分自身を見つめ
未来へと目を向けた時に
昔の仲間のところへ帰っていくのが、好きなお話でした。
5巻 起きる出来事が大きくなっていき、サポートに徹する豪士
5巻までくると事件のスケールも
変わってきます。
アメリカン・フットボールの
元プロ選手が、誘拐してしまった
資産家の一人息子との
まるで家族のような絆ができていくお話。
ナチによるユダヤ人狩りの被害者が
45年を経て実行した復讐。
ライン河を守る市民運動に
参加している妻と
ライン河付近の工場建設のため
反対派を鎮圧させる側にいた夫の対立。
豪士が今でも勝てない元教官との
束の間の時間。
テロ集団のパトロンである
恋人を持つ女性に
巻き込まれた豪士の戦友ジェフリーの話。
父の犯した罪のために
呪われた子として
村で忌み嫌われていた少年の大逆転劇。
そしてキング オブ ザ・ロード。
チャイナタウンの元ボスや部下たちが
味方になってしまうロンドン警視庁の話。
基本1話完結のものが
キング オブ ザ・ロードは
3話分で1つの話という
ボリュームのあるものでした。
豪士は今でも戦闘レクチャーをしています。
彼の指導をみるみる吸収し
実践していく人たち。
豪士はサポートに徹し
ストーリーはほぼ
コーチを受けた人たちで
動いていたようでした。
もちろん豪士が主人公であり
彼がメインで動いていくものもあるのですが。
そのくらい、各話に登場する
人たちの物語を動かす力が
大きくなっていました。
小さい男の子でもです。
町のほとんどの人が嫌う
自分の父のことを
信じ続けていた少年。
姉夫婦でさえも
父の残した莫大な借金に
追い詰められていたのでした。
それでも諦めなかった少年の話や
豪士自身が少年に戻ったかのように
釣りに没頭する話などもあります。
その話ですら穏やかなばかりでは
ないですが、命が失われるような
争いからは、少し離れた時間でした。
悲しみや怒りを
自分で制御できるようになりたいと。
たくさんの戦いの中で生きてきた豪士は
最後にこぼします。
けど休息中の豪士を
彼の素性を知らない人が見れば
彼は自分の人生を愛しているように
見えると話していました。
たくさんの戦いを知っているからこそ
そこから離れたわずかな休息や
好きな釣りが、たまらなく愛おしいんだと。
少年に戻ったような豪士と
彼を見ていた2人の男性を見ていて感じました。
6巻 仲間たちと再び戦地へ
最終巻です。
短編の内容が濃くて
もっとたくさん読んだ気がしています。
6巻の半分くらいが
1つのお話になっていました。
豪士の亡き戦友であるキースの話や
かつての仲間やライバルも集結し
ヨーロッパ全土を賭けた戦いが始まります。
物語のクライマックスを
迎えていました。
以前から存在を少しずつ
現し始めていた人物が、最後の敵となります。
彼は「黒の手紙結社」という
テロ組織を立ち上げ
ヨーロッパを滅ぼそうとしていたのでした。
神を信じ、自分と同じ人間を
虫ケラだと彼は言います。
虫ケラと一緒に、人間としての
退屈な時間を歩まなければならないのかと。
だいぶ超越した考えの持ち主でした。
使用済みの核燃料を手に入れた
テロリストらを止めることができるのか。
頼みの綱は爆弾の解体技術に長けた
豪士の手にかかっていました。
最後の大きな戦いの前には
束の間の休息が用意されていました。
豪士がキースの奥さんを
訪ねるエピソードです。
豪士は、キースを撃ち殺したことに
向き合おうとしているようでした。
大きな戦いの前にケリをつける
というのが、しっくりきています。
キースは最後の戦いでも
いつものように明るく
そして張り切っていました。
けどそれとは反対に
1人になることを恐れていたのです。
彼が1人になる状況があれば
そこから解放してあげてほしいと
奥さんに、豪士は頼まれていたでした。
そして戦場で負傷したキースを
1人残していくのではなく
引き金を引くことを選んだと。
それでも生還して奥さんに
伝えた時には、彼女のやり場のない感情は
豪士へ向かうことに。
それをただ静かに
受け止めていた豪士がいました。
豪士は少し前から
「黒の手紙結社」のリーダーに
狙われていると気づいていました。
彼が戦闘をレクチャーしているようにして
犯人も教え子に戦闘を教え
豪士の命を狙わせていたのです。
豪士がこの戦いの前に
キースの奥さんを訪ねたのは
大きな戦いへ向かう前の
覚悟を決める為のようでした。
そして奥さんを自由の身にする為でも。
やり残したことがないように
1つひとつ向き合っていた
彼の時間は、静かで
暗い音楽が流れていたものの
浮かぶキースの表情は、明るいものばかり。
積もった雪で作った
キースの雪だるまも
優しい笑顔で2人を見つめていました。
傭兵を引退してからも
戦いの中に身を置き続けていた豪士。
読み終えて思ったのが
戦いは繰り返されるということ。
最後に1巻に登場していた
懐かしい苗字を見かけました。
また最後の戦いを描くために
たくさんの短編があったのも感じています。
豪士がどういう人なのかを知り
彼と対になる存在が黒幕として現れ。。。
マンガの世界です。では終わらない
戦争のお話でした。
25年以上前に描かれていたものですが
今読めてよかったです。
これからをどう過ごしていくのか。
平和が、どういうものの上に
ギリギリ保たれているのかを考える作品でした。