『みどりいせき』バッテリーから密売仲間へ。ハッピーとバッドの入り混じる青春物語【あらすじ感想】
2024年2月に発売された大田ステファニー歓人さんの『みどりいせき』を読んできました。
第47回すばる文学賞、第37回三島由紀夫賞、選考委員激賞!を受賞したデビュー作とのこと。
不登校ギリギリの主人公翠が、少年野球のチームメイトであった春との再会をきっかけに社会の裏側へ。
薬物と学生。
ごく普通の生活から急転換した翠の青春が描かれています。
あらすじ
主人公の桃瀬翠は、学校に馴染めずにいた高校2年生。
彼が小学生の頃、野球チームでバッテリー(ピッチャーとキャッチャーの総称)を組んでいた春との再会をきっかけに、ストーリーが動き出していきます。
春は高校生活を送りながら、裏の世界で生きている女子でした。
彼女の仕事は大麻の密売です。
そんなことは知らずに春と接していた翠。
ですがひょんなことから、彼はそこに巻き込まれていくことに。
そこには普通の青春を謳歌している生徒には予想もつかない日々が待っていました。
感想
独特の文体。
自由な表現や会話でストーリーが進んでいきます。
物語を読むのに慣れるまで時間が掛かるという、初めての感じがありました。
言葉遊びのように続いてく会話。
若い一部の層が使う言葉を、大人はどう読むのか。
ラップのように交わされる言葉のリズムだけど
だんだんノリで読み進めていけるようになった時の楽しさは、他で味わったことのないものです。
慣れてからは、めちゃたのでした。
言葉の難関を突破すると文体が砕けている分、彼らの心により近づくことができます。
普段の会話に、翠たちの調子を混ぜてみたくなる中毒性でした。
・・・
薬物の出てくる作品ということで、いつ何があってもおかしくない
危うさと隣り合わせで生きている春たち密売の仲間たち。
学校に馴染めないでいた翠が
こんなはずじゃなかったということはあるものの
春がいたことで、そこが新しい居場所になるという。
彼女がいたから近づき巻き込まれ
散々な目に遭ったものの、結局そこにい続けることになった翠。
この翠を、大人はどう捉えるのか。
けど恐怖に怯え、不安に苛まれ
もう懲り懲りなはずだけど結局いる。
最初は春から始まった、この繋がりが
いつしか彼女だけじゃなくて
他の仲間の存在も大きく影響するようになっていたこと。
最初の無気力な翠から少しずつ脱皮してる感じが、青春ドラマだった。
・・・
違法薬物のテーマに構える人もいるのかもしれないけど
それを肯定するでも否定するのでもなく
関わるメンバーの中に生まれていった愛だったり、絆が大きく描かれている作品です。
危険なものを扱っている分、彼らはいつだって本気でした。
彼らは薬で脳内が、違う世界に飛んでる時も一緒。
学校の中、外、飛んでいる時まで共有しちゃったら生まれるでしょうラブ&ピース。
なんてそんな軽々しくは言えないテーマですが
学生さからのノリと勢いのパワー。
決してハッピーなことばかりではなく
ラストの先に待っているのがどんなことでも
読み終わった後には、爽やかさを感じる青春の物語でした。
・・・
最後に、『みどりいせき』はどういう意味なんだろうって。
最初は「翠移籍」なのかと思ってました。
けどハズレで。笑
答えを考えるのも楽しさの一つでした。
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