のほりひがし。 東の感想ブログ

【ネタバレ注意・あらすじ感想】映画『犬王』呪われた体の能楽師と、呪いで失明した琵琶法師の物語

映画感想

こんにちはの東です。
今回は映画『犬王』について書いていきます。

原作は小説の
『平家物語 犬王の巻』。
湯浅政明(ゆあさ まさあき)監督による
長編アニメーション映画です。

日本の誇る伝統芸能である能楽。
600年ほどの歴史をもつ
世界最古の舞台芸術が
現代版になって、表現されていました。
実在した犬王の物語と一緒に
ライブのような能楽を
スクリーンで楽しめる作品です。

ネタバレがあるので
それでもいい人だけ進んでください。

あらすじ

能楽師の犬王(いぬおう)と
盲目の琵琶法師、友魚(ともな)が
奇跡的な出会いを果たします。
そして醜い犬王の体を
元に戻すため、能楽を通して
徐々に、本来の姿を取り戻していく
物語が描かれていました。

登場人物・声優

■犬王(いぬおう)
声:アヴちゃん(女王蜂)

面を被って、京の都に
名を轟かせた犬王。

どんな見た目をしてても
周りから、蔑んだ目で見られても
人のそういうものを
すべて弾き飛ばすような
彼のエネルギーがすごかった。

片方だけ異常に長い腕。
空に向かって、ズズズズッと
伸ばすシーンに、彼の上を目指す
気持ちの強さを見ていました。

■友魚(ともな)
声:森山未來

盲目の琵琶法師。
失明するまでは、父と一緒に
漁に出ていた人でした。
目が見えなくなっても
笑顔を浮かべられる彼は、強い人だと思う。
犬王だけでなく
彼の成長も、わかりやすく
描かれていました。

■足利義満(あしかが よしみつ)
声:柄本佑

室町時代の第3代征夷大将軍。
史実では、犬王のことを
かなりひいきしていたのだそう。

それは犬王と同じ頃
義満が、かわいがっていた
観阿弥(かんあみ)や世阿弥(ぜあみ)
という能で、成功を収めた人たちよりもだったのだとか。

映画では、犬王のことを
よく思っていない段階で描かれています。

■犬王の父
声:津田健次郎

猿楽の能を披露している
一座・比叡座の棟梁(とうりょう)。
能楽へ向ける執念は異常だった。
教え子たちも、みんな怯えてそうな。
そして犬王の容姿を
受け入れられず、息子とも思ってなさそうでした。

 

感想

アニメで楽しむ現代版能楽の映画


『犬王』公式サイトより出典

まずに、アヴちゃん
森山未來(もりやま みらい)さん
ガッツリ謡い、語ります。

物語の間にサラッとではなくて
数曲分ガッツリと。
予告や、出ている情報を
何も見ないで行ったのですが
役のハマり方がすごかった。
まさかのでした。

そして映画のシーンに混ざって
自然に、曲が始まるというよりも
能楽師の犬王(いぬおう)
琵琶法師である友魚(ともな)
披露している姿を
村人たちと一緒に、観ることになります。
犬王は、舞台です。
映像でライブを楽しんでいるようでした。

曲のシーンと物語とで
分けて考えても
曲のボリュームがたっぷり。

それゆえに、SNSで
感情移入が追いつかなかったとの
声を見かけたりもしました。

物語重視な人たちの声だと思います。

なので、これから観るのなら
曲をストーリーと切り離して
観るのではなく、詞の中にも
彼らの物語があるのを
感じながら、観てみるのをオススメします。

あとは原作に触れる。
物語を深く知りたいのであれば
それが一番です。
登場人物への感情移入や
映像の捉え方も
違ってくると思います。

そのくらい、パフォーマンスに
時間の重きを置いた映画でした。

アルバムもあるので
ぜひチェックしてみてください。

 

奇怪な犬王と、盲目な友魚の奇跡的な出会い


『犬王』公式サイトより出典

多くの名作を
生み出したにも関わらず
残っている作品が、存在しないという犬王。

実在した彼は
室町将軍足利義満
(あしかが よしみつ)の庇護を受けていました。

犬王の後世に有名になった
世阿弥(ぜあみ)にも影響を与えるほどだったとされています。
そして、世阿弥よりも
ひいきされていたのだそう。

けど世阿弥の謡曲は
たくさん残っていながら
犬王のはまったく残っておらず。
それはどうしてなのか。

歴史は力を持っている人によって
残すことも、消すことも
できてしまうのを、観ていて感じています。

犬王の消えてしまった歴史が
基になり、アニメ映像で蘇ったのが、この映画でした。

 

恐ろしい姿で産み落とされ
家族にすら、忌み嫌われた犬王。

名前を呼ぶ人はいないからと
子供の彼は、自分の名前すら
持っていませんでした。

動物しか近寄ってこないような
彼に、奇跡的な出会いが訪れます。

それが目の見えない琵琶法師
友魚との出会いでした。
彼は目が見えないので
犬王の姿が見えません。

彼の盲目の世界には
エネルギーのようにして
犬王が存在していただけ。

犬王を恐れない人は
彼にとって初めてのことです。
そうして2人は意気投合。
そんな彼らを繋いだのは、一つの曲でした。

 

父からの解放と、変わっていく友魚の名前


『犬王』公式サイトより出典

友魚は物語の中で
2度名前を変えることになります。

1度目は、琵琶法師に弟子入りし
その集団に入った時。

次は、そこを抜けた時。

自分は、その名前の変化にジワ〜っと。

彼は猟師の家の子でした。
両親に与えられた名前は、友魚です。
そのまま何事もなく
生きていたら、彼は父のように
なっていたと思います。

それが、京からやってきた
男たちの取引に応じたことで、事態は一変。
海の底に沈んだ
3種の神器である刀

友魚たち親子は
拾い上げることになります。
けどそれが原因で
父は胴体が真っ二つに
そして友魚は失明
してしまうのでした。

母は復讐心に襲われ
叫び続けていました。
そして、死んだ父の霊も
友魚に復讐をさせようとします。

けど彼はそれよりも
琵琶法師の道を選ぶことに。
それは、父の呪縛のようなものと
彼が決別した
ように感じています。
琵琶法師・覚一の座に入る時
与えられた2つ目の名前は
友一(ともいち)でした。

 

その後、友一は
犬王と出会うことになります。
海を離れて、友達が1人できた時でした。
この名前の変わり方と
彼の物語がリンクしてるのが、好きなところ。
あと、名前の変わる場面が
章の変わり目のようにも感じています。

こうし友一の時に
彼は忘れ去られた「平家物語」を語り
人々に、伝えていこうとします。
それまでにない斬新な平曲として
人々の記憶に焼き付けようとしていました。

彼らが曲にすることで
犬王に取り憑いた者たちの魂を
成仏させようとしていた
のです。
彼らは、戦いに敗れて死に
その歴史すら忘れ去られた人たち。
「平家物語」は敗れた者たちの物語なのでした。

彼らの魂が浄化されていくにつれ
犬王の体が、本来の姿に戻っていくのが描かれています。

 

彼らの舞台は大盛況。
2人なら怖いものなしのように
見えていました。

友一はそれまでいた
琵琶法師の座を抜け
自分で新しい名前をつけることに。

その名前が、友有です。
犬王以外にも、仲間ができていたのを
この名前が表してるようだった。

彼の名前が変わるタイミングや
周りの変化が楽しかったです。

 

父の存在と、自分でつけた名前


『犬王』公式サイトより出典

友魚と犬王は、似たもの同士でした。
そんな2人だから
一緒に高みを目指せたんだと思う。

犬王は、猿楽の能を披露している
一座・比叡座の家の息子
でした。

けど見た目の醜さから
父に愛情を注いでもらうことはなく。
忌み嫌われ
犬王に怒鳴りつけるシーンが。

彼の父は、能楽に全てを
捧げてきた人でした。
舞の美しさを追求する精神は
普通じゃないくらいで。

そんな彼にとって
美しさとは真逆の位置にいる
息子を受け入れられずにいた
よう。

けど犬王は、友魚と出会ったことで
名前をつける機会を得る
ことになります。
これまで、ひとりぼっちだった
彼に変化が訪れた時でした。

彼はここで自分の名前を
犬王と決めて、その後
京都で、その名前を広めることになります。

彼を醜いものとして
邪険に扱っていた父からの
精神的な解放を表している
みたいだった。

そして、自分の名前をつけた姿は
友魚にも影響を与えることに。
友魚が最後、自分の名前を
自分で決めたのは
犬王の影響だと思いました。

 

(※結末になります)友と夢


『犬王』公式サイトより出典

2人のすれ違いのような結末に、グッサーっと。

京都に名前が知れ渡り
人気者になっていった犬王と友有。
ここから更に〜っていうところで
力を持った人たちの前では
何もできない
という
悲しい展開が待っていました。

犬王と友有の影響は
京都の町にどんどん広がっていました。
けどそれを
良しとしない人物がいたのです。
それが3代将軍の
足利義満(あしかが よしみつ)
でした。

義満は犬王と友魚の持つ影響力に
危機感を抱いていたのです。
そこで彼らにこれ以上
新しい「平家物語」を謳い語るのは
やめるようにと、要求してきます。

ここで2人のとった選択の違いが
別れ道でした。

友有は新しい「平家物語」を
語り続ける道を選びます。

けどそれは義満に逆らうということ。
それがわかっていながらも
自分を貫いた彼は
そのまま殺されてしまうのでした。

一方の犬王はというと
友有とは違う選択を、取ることになります。
苦渋の決断でした。
その時の彼の様子から
本望でないことは、すぐわかります。

それでも義満に従うことが
最善と考え、彼は要求を飲むことに

けど友有は
既に死んでいた
のでした。

その後、残された犬王が
どんな気持ちで過ごしたのか。。。

実は原作をまだ読んだことがありません。
なので映画だけを観て思ったことを
書かせてもらいました。

バッドエンドだったけど
最後の最後で、救いがあったのが嬉しかったところ。
彼らは600年の時を経て
再会することになります。

友有は、名前を
友魚に戻してしまったのかも。
仲間もいなくなって
犬王には裏切られたと
思ってたんじゃないかな
と。

場面は現代へ。
そこを彷徨っていたボロボロな
友魚の霊を、犬王が見つけた
時は
ジーンとしてました。

霊になってから600年もの間
友達を探し続ける人は
そういないと思う。
犬王にとって、たった1人の友達。
彼と再会できたことが
自分は嬉しいラストでした。

 

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