映画小説『平場の月』普通を見つめることで感じる尊さ【あらすじ感想】
『平場の月』の世界に行ってきました。
監督:土井裕泰
著者:朝倉かすみ
公開日:2025年11月14日
第32回山本周五郎賞を受賞した朝倉かすみの小説を
『花束みたいな恋をした』(2021年)『片思い世界』(2025年)の土井裕泰が映画化。
映像権をめぐって30社以上からオファーがあった作品です。
平場の月のあらすじ
35年ぶりに再会した青砥健将と須藤葉子。
2人はどちらもワケあって地元に戻った中学の同級生でした。
妻と別れた青砥と、夫と死別した須藤。
50代になった2人の話は尽きません。
中学生の頃に、お互い上手く話せなかったのがウソのよう。
離れていた間のこと、中学の頃のことそして今から未来へと2人の時間は向かっていました。
平場の月の感想
普通の中にある輝き
月。
三日月が満月に向かっていく時の、日に日に光が大きくなっていくような高揚感。
大きな満月を経た後の光の量が減って細くなっていく感じ。
なだけでなく、月の見えなくなる様子までもが浮かんでくる青砥と須藤のお話でした。
・・・
言葉にするのにグルグル。
観た後に、自分はぽっかり穴が空いてしまったような気持ちになりました。
その穴を包むように振り返りたくなる作品です。
自分が50代だったら、今とは違うものを感じているんだろうなと。
50代になるまでの楽しみができました。
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グルグルしながら見た今日の月もきれいで。
この日は今年最後の満月でした。
いろんな建物や明かりのある場所で見ても自分にとってその存在感は特別です。
平場に浮かぶ月を思い描いた時
それは建物や明かりのある場所よりも輝きが増して見えたり、尊いものになっていくんだろうなと思いました。
・・・
『平場の月』は、ごく普通の暮らしをしている男女2人のお話です。
日常の延長。その普通の中で災難に遭い、再び普通の幸せを求めて手を伸ばしていく。
誰もがその人の人生の主人公ではあるけれど
特別に何かすごいことを
それこそ映画や漫画の主人公のように繰り広げていくような輝きは『平場の月』では描かれていません。
年齢を重ねて、誰かを支える側に回ることの増えていく年代の人たちが
ごく普通の場所で、その人にとっての幸せを掴もうとすることの尊さ。
平凡な日常や小さな世界は人によっては窮屈だったり、刺激が足りなくて退屈かもしれません。
けどその普通の中を精一杯生きることに『平場の月』の輝きを見てました。
2人の時間が増えるほど見えてくる子供の頃からの変わらない部分
『平場の月』は年代で感想が変わりそうな作品です。
50代以降の方の感想が特に気になってました。
人は生きてきた歳月の分だけ、いろんなことを経験して身につけたりして
大人としての振る舞い方だったり、あり方などを覚えていくと思います。
それでも幼少期のその人の全部が大人になって変わったのかというと、そうじゃないんだと。
子供の頃からの変わらない部分。
そういう部分が過去と今を行き来することで見えてきます。
でまた、その変わらない部分というのは生きてきた歳月が長くなるほど
その人が大人として生きるために必要だったもので、覆われていくのかもしれません。
・・・
静かな2人の時間を見つめていく『平場の月』。
それは大人になった2人の心が裸になっていこうとしたり
覆っていた一部が不意に形を変える場面に遭遇したりもします。
その人の心の奥が見えた時に、こう、もっと開けたくなってしまうもどかしさ。
けど開けない、それは優しさなのかな。
たくさん言葉を交わしながらも交わされていない、交わっていない部分というのがあること。
2人の距離が近づいた分、そして観ている側と2人の距離も近づいていた分
気付いてしまうところの出てくる関係が映し出されていました。
映画から小説に進んで感じたこと
青砥目線で進んでいく原作。
映画は小説とまた違う見方で2人を見ていくことになります。
そして同じストーリーでも、どこから2人のお話が描かれていくのかの違いもありました。
映画から小説にいく流れは、前にも書いたけれど
ぽっかり空いたままになっていた穴をゆっくり包んでいくのに近い感じがあって。
巻き戻っていくように始まっては、振り返りながら読んでいった原作です。
何の気なしに始まった定期的に2人が会って話す会。
大人になった2人で青春を再現したり触れ合った時間
見逃すくらいにさりげない気持ちの表れやサインも
どれもが、どれだけかけがえのないものだったのか。
とめどなく押し寄せる感情の波に飲まれては振り返って、開けきれなかった部分も含めて閉じていく。
その様子を浮かべると頑なさや相手を配慮することから口を閉ざすのも
言葉足らずというのも
もう1人にとって、あまりに酷なことだと。
言いすぎても、相手がそれを受け入れられるタイミングじゃなかったり
言わなすぎても、相手にこれ以上はないほどの傷を負わせることになってしまったり
あれだけ一緒に過ごしていたのにっていう密に感じていた時間の温度が変わっていった時がありました。
50代になったらまたどこかに書けたらと思います。
『平場の月』の書籍