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ゲーテ『ファウスト』神と悪魔の賭けに選ばれたファウスト【あらすじ感想】

小説感想

ドイツの詩人・劇作家ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(1749-1832)が生涯の大半、60年を掛けて作り上げた長編の戯曲。

ゲーテはヴァイマール公国の宮廷顧問を務めながら、文学作品の執筆に励んでいました。

ファウストは15〜16世紀に実在した人物です。

ゲーテは幼少期からヨハン・ゲオルク・ファウストの伝説が基になっているドイツの人形劇や民衆本に魅力され、多くの影響を受けているとのこと。

 

黒魔術師と噂されていたファウスト博士

医学、錬金術、占星術なども身につけていた人物です。

ですがファウストが悪魔術の研究をしていたかは定かではなく
人々の間で悪魔との結びつきが強まっていったとも考えられています。

しかし彼の最期は奇妙なものであり、錬金術の実験の最中に突然起きた爆発が原因で体がちりぢりに。

その死に方からファウストは悪魔と契約した黒魔術師と噂され
悪魔的なものとファウストの繋がりが人々の中で強まり、ファウスト伝説としてドイツに広まっていたのでした。

 

『ファウスト』あらすじ感想

第一部(1808)

第一部の完成はゲーテが57歳になった1806年。

・・・

学者として成功していながらも、自身の人生に満足のいかない老ファウスト博士。

そこで今度は宇宙の真理を追求しようと地霊を呼び出そうとしていました。

しかし彼らに拒絶され、自殺を図ろうとするファウスト。

そんな彼を止めるようにしてイースター(十字架にかけられて亡くなったキリストが、3日後に復活したことを祝う日)の鐘や音が聞こえ、彼は自殺を思いとどまります。
 
そうしたファウストの前に現れたのがむく犬に扮した悪魔メフィストフェレスでした。

誘惑されたファウストはメフィストの話に乗り、期限付きの契約によってメフィストが下僕として仕えることになります。

ファウストはメフィストの力で、あらゆる欲が満たせるように。

その代わりファウストが満足からくるある言葉を口にした時、それはメフィストの勝利を意味し、魂を差し出さなければなりません。

こうして期間限定のメフィストとの旅が始まり、20代の若さに戻ったファウストはマルガレーテ(愛称:グレートヒェン)と恋に落ちます。

ですがファウストはグレートヒェンを不幸のどん底へと突き落としてしまうのでした。

・・・

第一部は神と悪魔の賭け事にファウストが選ばれたことで始まっていきます。

そこでメフィストがファウストの前に現れ、同行する旅の最中に出会ったグレートヒェンと恋仲に。

ファウストはメフィストの力でどんな欲も満たすことができるようになるものの、その中で葛藤が生まれていました。
 
たとえ間違った選択をしたとしても、ファウストならと信じる神。

そこを悪魔の道に引き連れていこうとするメフィストと。

自分が賭け事の対象になっていると思いもよらないファウストは、善と悪の間で苦悩することになります。

・・・

またゲーテの『ファウスト』は、いくつかのバージョンが存在していました。

初稿の『原ファウスト』(1775)。
そこから書き加えられた『ファウスト 断片』(1790)。
そして完成版の『ファウスト第一部』(1808)。

『原ファウスト』にはない目次や文が加わって完成したのが第一部です。

中でも書き加えられた最後の部分は、第一部の全体像や、第二部へ続く印象を大きく変えるものに。

グレートヒェンの悲劇の中、加筆された天上の声を通してゲーテが彼女に手を差し伸べているようでした。

・・・

30年も時間をかけて悲劇だけでなく、そこに救済の解釈を強調したことで変わった第一部の世界。

ゲーテはどんな思いで何十年もかけてこの言葉を加えたのかと、驚き感動した部分でした。

 

第二部(1833)

完成はゲーテが亡くなる前の年ですが、彼は作品を死後に発表することを望んでいました。

そのため作品はゲーテが亡くなった翌年の1833年に発表されています。

五幕からなる第二部。

第一部ではメフィストと契約したファウストやグレートヒェンなど、主に個人間の世界が描かれています。

対する第二部は大きな広がりを見せていきます。

また第一部でファウストの魂を奪うことに失敗したメフィストですが
2人の契約は続いており二部ではメフィストの心待ちにしていた瞬間がついに訪れるのでした。

・・・

グレートヒェンを助けることができなかったファウスト。

彼は絶望の淵にいました。

それでも自然に触れ精霊に囲まれているうちに活力を取り戻し、絶えず努力を続けようと決心をします。

愛を失ったファウストは次に権力を手に入れようとしていました。

・・・

そこでファウストはメフィストの力を使い、今度はローマ皇帝に取り入ろうと画策します。

ところが国の財政は破綻しかけ権威も力を失い、立て直しを考えなければならない状態に。

ですが国の危機的状況をメフィストとファウストは挽回させ、2人は皇帝からの寵愛を得ることに成功します。
 
しかしその後も続く皇帝の無茶な要望。

その要望はギリシャ神話の男女パリス

(トロイアの王子。ヘレネを誘惑したことで、ギリシャ神話最大のトロイア戦争を起こす原因をつくった人物。)と、

ヘレネ(絶世の美女であるスパルタ王妃)を見たいというものでした。
 
そこで今度はパリスとヘレネの姿を皇帝の前に出現させることで乗り切るものの

そのあまりの美貌にまさかのファウストが魅了されてしまいます。

そしてファウストがヘレネに触れようとしたことでその幻は爆発し、彼は気絶。

その間にメフィストと、彼から事情を聞いた人造人間のホムンクルスに連れられ

ファウストは古代ギリシャへと向かうことになるのでした。

・・・

メフィストも呆れるファウストの行動。

けどまだ誕生して間もないホムンクルスは、もともと備わっている高い知性などから

ファウストの話しを聞いただけで彼の想いを汲み取ってしまいます。

ホムンクルスはファウストの弟子ワーグナーが造り上げたものでした。

ホムンクルスは人造人間でありながら

ファウストのヘレネへの想いの他にもファウストの初期衝動や

第一部で抱いた学びの範囲だけでなく外に出て体験することへの強烈な憧れをも

メフィストの話しだけでファウストの多くを理解していたのです。
 
あのメフィストが一目置くワーグナー。

そして彼の生み出したホムンクルスだからこそメフィストはファウストの話をしたのですが

ホムンクルスがいなければ、古代ギリシャに時空を超えてまで連れて行こうという話にはまずならなかったと思います。

「つまるところ、我々は自分のこしらえたものに引き回されることになるんですね。」

メフィストは作品の中に留まらない、現実社会に対しても意味の深いセリフを残していました。

・・・

その後ファウストはヘレネとの幸せを手にするものの、幸福な時間は長く続かず。

またしてもファウストたちを悲劇が襲う中、重要になってくるのが「永遠なる女性」というものでした。

二部のヒロイン的存在は絶世の美女ヘレネですが、ファウストの心の中にいたのは、既にこの世を去っているグレートヒェンなのです。
 
グレートヒェンとの間にあったものが愛であって

ファウストがヘレナに求めていたものとの違いが、この悲劇の後に見えてきます。

・・・

またファウストは古代ギリシャにきたことで、実際に触れられるヘレナと出会えたのですが

メフィストの行動から彼の大掛かりな芝居を見せられているのではという拭えきれない違和感がついて回ります。

そんな幻のような古代ギリシャの旅が描かれていました。

・・・

ここまで悲劇を繰り返してきたファウストですが、それでも彼は止まりません。

ギリシャの旅から帰ってきたファウストですが、彼は海に勝ちたいと言い出します。

この時既にファウストは100歳を迎えていました。

またどうやって海と戦うのかと思えば、海の領域を狭めたい、自然をも支配したいのだと。

ですがその願いを叶えるためにメフィストの召喚した悪魔が次の悲劇を生み、ついにはファウスト自身にも罰が下ります。

・・・

ファウストの欲からくる行動は最後まで悲惨な終わりを迎えていきました。

それでも天はファウストのただならぬ向上心や、努力を讃えます。

そして最後には願望からくる自分のための行動が、多くの人のために行動することの喜びへと変わっていったファウスト。

達成するところまではいかずとも、彼は最高の幸福を予感するというところまできていました。

ファウストは100歳にして大きな成長を遂げたのです。

・・・

そしてファウストの罪を包み込むほどのグレートヒェンの愛。

悲惨な死を迎えてもなおファウストを想い続けていたグレートヒェンですが、そんな彼女の願いを聞き入れたのが聖母マリアでした。

グレートヒェンがファウストにとっての永遠の女性であるのに対し、聖母マリアは世界の永遠の愛として描かれています。

この大きな天の愛が、ファウストの魂を奪おうとするメフィストの前に現れたのでした。

・・・

悪魔の力を借りて自分の欲望のために生きてきたとしても

その中で自分を高めようと努力を続けたり成長を遂げたりすることは

たとえ努力が実らず悲惨な現実をつくりあげようとも、永遠なる愛によって救われる者もいるのだと。
 
ただこの作品は、多くの才能や欲をもっていたゲーテ自身の戒めが込められているともされています。

またたくさんの翻訳がされ、クラシック音楽の世界にも多大な影響を与えた『ファウスト』。

様々な解釈がされている中でも、作品に触れて感じた愛の偉大さ。

悲劇が描かれながらそれを包み込む愛の大きさに、愛ってなんだろうというところに帰っていったりと。

今じゃとても理解しきれないゲーテの大作でした。

 

『ファウスト』書籍

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