映画『星つなぎのエリオ』成長したことで気付けたすぐそばにある愛【あらすじ感想】
映画『星つなぎのエリオ』の世界に行ってきました。
公開日:2025年8月1日
監督:マデリン・シャラフィアン、ドミー・シー
もともとはエイドリアン・モリーナが監督を務める予定でしたが
2029年公開予定の『リメンバー・ミー2』の製作に向けて降板されたとのこと。
そのためモリーナの幼少期や大学への進学が、発想の起点になっているそうです。
もくじ
『星つなぎのエリオ』のあらすじ
両親を亡くし、周囲にも馴染めずにいた少年、エリオ・ソリース。
叔母のオルガ・ソリースに引き取られ一緒に暮らすも
彼のひとりぼっちという意識が無くなることはありませんでした。
エリオはここではないどこかに本当の居場所があるはずと信じ
大好きな宇宙へと思いを馳せます。
やがてエリオの願いが届いたのか、訪れた奇跡の瞬間。
そうして宇宙へと招待された先で待っていたのはエイリアンの少年、グロードンとの出会いでした。
同じ孤独を抱えるふたりが出会ったことで生まれた絆が描かれています。
『星つなぎのエリオ』の感想
それぞれが心に抱えている孤独な部分
両親を亡くし孤独を抱える11歳のエリオ・ソリース(声:ヨナス・キブレアブ/川原瑛都)と
エリオの父の妹であり、彼を引き取ることになったオルガ・ソリース(声:ゾーイ・サルダナ/清野菜名)。
オルガは空軍少佐ですが、エリオを育てるため彼女の夢を手放すことになります。
また心に大きな傷を負ったエリオと、どのように向き合ったらいいのか
仕事と突然始まったエリオとの生活に増えていくオルガの悩み。
親子ではない2人の始まったばかりの関係というのは、絶対的な安心感というものはなく
心配や不安、迷いや疑いがつきまとっていました。
本作は宇宙の存在との間だけでなく
地球で暮らす人たちの間のお話も丁寧に描かれています。
子どもはエリオの立場で、大人はオルガの位置に立って観れる作品になっていました。
・・・
そして悩みを抱えているのは人間だけでなく。
見た目のまったく違う存在でありながら
エイリアンのグロードン(声:レミー・エジャリー/佐藤大空)は
父であるグライゴン(声:ブラッド・ギャレット/松山ケンイチ)や
一族の仲間の持つ強さが自分には無いと感じ、自分の弱さに疎外感や悩みを抱えています。
エリオと同じ人間だけど世代の違う人同士と
エリオと同じように子どもだけど、生まれた星が違う存在同士。
生きている時間の長さや、姿の違うもの同士の間にも
同じようにしてひとりで抱えているもののあることが、キャラクターを通して描かれていました。
エリオ・オルガ・グロードンのついていた嘘
映画のメインキャラクターに共通しているもの。
それはみんなが嘘をついているということでした。
地球のリーダーと勘違いされて宇宙に招かれたエリオ。
それでも彼はリーダーのフリを続けます。
そして言うことを聞こうとしないエリオに疲弊しながらも
外では上手くいっているふうを装ってしまうオルガ。
最後に一族の伝統を受け入れている姿を見せ
本心でないことを口にしているグロードンです。
グロードンの一族はある鎧を身につけ
戦いに身を投じなければならない未来が決まっているのですが
それは本来の姿を隠して武装するためのもの。
鎧を見た時に真っ先に浮かんだのは拷問具の「鉄の処女(アイアンメイデン)」でした。
グロードンの鎧は強くなるために本来の姿を隠すという意味で見ると
ここでも嘘をついていると捉えられます。
・・・
こうしてこの作品の主要キャラは何かしらの嘘をついて、現状を保っていました。
その嘘が明かせないものの場合、誰とも共有できない部分ができることになります。
それが重大なことであるほどに、その分の孤独が生まれるんじゃないかと
彼らを見ていて思いました。
見破られた嘘とそうでない嘘の違い
この作品のおもしろいのは通用する嘘と、そうでない嘘が描かれていることです。
途中まで誤魔化せてしまう嘘がありながら、嘘が簡単に見破られる場面というものもありました。
何が違かったのか。
そもそも嘘のつき方も違うのですが
いろんな考えが出てきそうな部分だと思うところ。
自分の場合は、嘘をつかれた側の愛の大きさと
誰かが身代わりになろうとしても、本物にはなり得ないんだなと。
よく知っていて、心の底から愛しているとやっぱり見破ることができてしまうんです。
そして孤独と嘘はどこかで結びついているものがあるんだと
孤独を抱えている人へのメッセージが込められている映画なことから、そう考えるようになりました。
エリオを変えたのは彼を受け入れ対等であったエイリアン
エリオが宇宙に憧れるのは、現実逃避と同じことでした。
辛く悲しい現実から目を逸らすためのもの。
まだ広い世界を知らない彼にとって、知っている範囲が世界のすべてです。
地球に居場所が無いと思い込むほどに、エリオの抱える孤独は大きなものでした。
そうして宇宙に夢中になっていくことで拠り所を得た彼は
良くも悪くも心に強い軸ができていきます。
けどその代わりにいつも空を眺めては人を拒絶し、心の扉はガッチリ閉じたまま。
その閉じている心を開いたのが、違う星で出会ったグロードンでした。
地球にいた時の、エリオを包んでいた周囲の雰囲気とは違い
グロードンと出会った星は、そこにいるだけでワクワクしてくるような色鮮やかで楽しい場所。
そこでふたり一緒に過ごした時間は、エリオの世界を一気に広げていきます。
彼の成長は、それまで献身的に愛情を注ごうとしていた人の元ではなく
姿が人間とかけ離れていても
そのままの彼を受け入れ、対等に接してくれる存在によってもたらされたものでした。
グロードンはエリオを変えようとしたりしたわけでもなく
ただ一緒に遊んで楽しんでいただけです。
それでもエリオにいい影響を及ぼしていました。
少しずつ確実に変化していったエリオ。
そこに成長途中だから感じられる彼の魅力がありました。
・・・
誰でも心が弱っている時は何かに縋りたくなったり
目の前のことから逃げたくなったりすることがあると思います。
自分もそうです。
そこでエリオの選んだ拠り所が、彼が自分の足で立って成長できる場所でよかったと。
ひたすら受け入れられて、優しかったり気持ちの良くなる言葉や
エリオが求めているものを与え続けるような場所ではなく
むしろ彼を拒絶するようなこともありました。
けどそれがよかったんです。
内に閉じこもっていたところから周りに目を向けられるようになり
そうして自分や周りの人を信じられるようにまでなれたことの大きさ。
エリオを見ていると、時々過去の自分を思い出したりすることがあります。
それもあって彼の目に見える変化が嬉しくなっていました。
子どもだから楽しめる目線と、大人だから受け取れるメッセージがある『星つなぎのエリオ』。
すぐそばにある大切なものに目を向けられたり、優しい気持ちになれる映画です。