『血の轍』13巻 大人になった静一と一郎のわずかな時間【ネタバレ注意・あらすじ感想】
ヤッホの東です。
今回は『血の轍』第13集のことを、書いていきます。
作者は押見修造(おしみ しゅうぞう)さん。
『ビッグコミックスペリオール』にて
2017年から2023年にかけて連載されていた作品です。
静一がいこうとしていた所に
彼より先にいってしまったのは、父の一郎でした。
ネタバレがあるので
それでも良い人だけ進んでください。
あらすじ
田舎に暮らす長部家は、3人家族でした。
静一に異常な愛情を注ぐ母の静子と
物静かな父の一郎です。
少年鑑別所に送られた静一。
静子は釈放されるも
面会に通い続けていたのは、一郎だけでした。
そうして審判の時にだけ顔を出した静子。
過去、静一に対して
恋人のように接していた、彼女はもうおらず。
「ありがとう。
ひとごろしになってくれて。」と残し
彼女は彼の前から去っていきます。
静一にとって、あまりにも残酷な現実。
それから月日が経ち
36歳になった静一は
ごく普通の生活を送っていました。
登場人物
■長部 静一(おさべ せいいち)
中学2年生だった主人公は、36歳に。
やっと普通の暮らしを手に入れたものの
静一自身に問題は残り続けていました。
側から見たら
それに気付くのは難しく
彼がひとりで苦しみ続けていました。
■長部 静子(おさべ せいこ)
静一の母親。
未だ彼の中で
どす黒いものを放っている静子。
ほんの数コマだったのに
頭に残る彼女は怖かった。
■長部 一郎(おさべ いちろう)
静一のお父さん。
一郎も静子による被害者でした。
静一と静子の知らない間に
1人でやり切っていたものに驚いています。
■吹石 由衣子(ふきいし ゆいこ)
静一と同じクラスの女の子。
大人になった由衣子。
彼女が今幸せなら
静一と関わらない方がいいんじゃないかと。
静一を通して、また静子と関わる
未来がないといいなと思います。
■三石 しげる(みついし しげる)
静一のいとこ。
静一の頭の中にいる存在みたいだった。
昔のイタズラ好きな
彼はもういなくて
口角をあげているだけの静かな彼でした。
感想
父、一郎と2人の時間
本章突入。
これまで序章だったのが
信じられないでいます。
本章に入って最初に待っていたのは
父である長部 一郎
(おさべ いちろう)との時間でした。
救護院(児童福祉施設の1つ)から
出た静一(せいいち)は
36歳になっていました。
表紙に描かれてるように
生気が抜けてしまってそうな。
体は大きくなったのに
薄れかけている感じがしてた。
大人になった静一の日常が描かれています。
ごく普通の毎日です。
何もない日々を過ごしていた彼は
三石 しげる(みついし しげる)と
同じところにいくことを考えていました。
しげるは静一が殺してしまったので
既に死んでいます。
静一のそばには、薄く笑みを
浮かべるしげるが立っていました。
彼は何を思ってるのか、すごく気になる。
そして静一が
自殺を考えていたとはって。
けど実行しないのは
彼をここに留めている人がいたからでした。
それが父の一郎です。
ずっと静一に声をかけ続けていたのは、今では彼1人。
他にも気にかけている人は
いるのかもしれない。
けど実際に接点があったのは
一郎だけでした。
今の一郎は66歳です。
彼は静かな性格で。
けど妻の静子(せいこ)と
言い争いをしていたことも、過去にはありました。
それが今では弱々しさと
どこか優しげな雰囲気が。
静一のことを本当に気にかけて
なるだけ笑みを絶やさないようにしていて。
静子たちが逮捕されてから
一郎は変わっていました。
そんな父に息子はそっけなく。
歩み寄ろうとする一郎に
駄々をこねるではないけど
ぶすっとしている子供のような。
2人の温度差が悲しかったです。
ある日、突然入った一郎からの電話。
工場勤務の静一のスケジュールに
父と会う予定が追加されます。
久しぶりのぎこちなさ。
一郎は気にしてないように
話しかけ続けていました。
ふたりでの居酒屋は初めてだと。
一郎はそれが本当に嬉しそうだった。
普通の親子の時間が少なかった長部家。
遅れてやってきた
普通らしいことは貴重なものに見えます。
また一郎は、静一が人との関わりを
避けてることを気にしていました。
「あいかわらず、ひとりなんかい?」と。
それに対して「…こんな人間…
誰かといられるわけないだろ」
と話す彼は、一郎を突き放してるようだった。
それを聞いて「ごめんな。
何も…してやらなくて」と言う一郎。
この「ごめんな」に
どこまでのことが
含まれてるんだろうと思います。
過去、救護院を出た後に
静一が一郎の元を去ると
決めたことがあっての今です。
その時、静一から出てきた言葉は
「今まで僕を
見て見ぬふりをしてくれて
ありがとうございました。」でした。
それが図星だったのか
眉を寄せてうつむく一郎。
過去の一郎には
今の彼がもつ穏やかさはありませんでした。
けど今の静一はというと
「こんな人間を見捨てないでいてくれただけで、もう十分だよ。」と。
一郎がずっと見てくれていたのを
静一は分かっていました。
それと彼自身が大人になったのが
この変化に繋がったんだと思っています。
お酒が入っているから
2人とも頬を赤くしてて。
同じように、よく赤くなってた
子供の静一を思い出してた。
もう最初の頃には戻れないけど
頬の赤みで、わずかに表情を感じられて。
久々の親子の時間に
気恥ずかしそうにも見えてた。
現実はそうじゃなくて
むしろ気まずいのほうが
しっくりきそうだけど。
親子での初の居酒屋。
けどこれが最後。
この描写にじんわりくるものと、悲しさを感じていました。
別れ際、静子に
一生会わなくていいのかと
聞く一郎がいました。
感情を消した表情で
「どうでもいいよ。
あたりまえだろ。」と言う静一。
「あたりまえだろ」の言葉を
自分に言い聞かせてるようで。
静一の中にも、未だに静子が
大きな影を落としていました。
一郎の死と予期せぬ再会
工場でやらかして、怒られていた頃
携帯に見知らぬ番号からの連絡が続いていました。
折り返し掛けてみれば、そこは病院。
一郎が倒れたという連絡を
受けることになります。
彼の腸壁には、穴が開き
油断のできない状態でした。
万が一を覚悟するようにと。
この間、2人の時間を過ごした後での
この展開はきていました。
せっかく距離が
少しだけ近づいた気がしたのにって。
それから静一は、一郎との
過去を思い出したり
お見舞いに行く日々を、送ることになります。
静一は見ていることしか
できませんでした。
お見舞いを繰り返したある日
一郎の意識が戻ります。
彼は薄く目を開けて
静一の名前を呼び「ごめん……な」って謝ってた。
居酒屋でも「何も……してやれなくて
……ごめんな」と謝っていた一郎。
その後も、帰ろうとする
静一を呼び止めて手を握りながら
「申し訳……なかったな」と。
なんのことか分かっていない
静一の質問には答えずに
「申し訳……なかった」と
また眉を寄せて繰り返す一郎なのでした。
「じゃあ…また明日来るね。」と
言う静一に、返事はなく。
けど目を閉じた表情が
笑っているように見える
彼が横たわっていました。
突然の出来事に、気持ちが追いつかず。
その時がきてしまいます。
その日もいつもと変わらず
過ごしていた時に、突然携帯の呼び出し音が。
向かった病室には
顔に白い布を被せられた
一郎が横になっていました。
もうあの笑みはなく
死にきれなさそうな表情に見えた。
幸せには遠そうな
重いため息を吐いてそうな顔に漢んじました。
静一はやっとひとりになったと。
この時を待っていたようだった。
彼は一郎の遺言書を
読むことになります。
そこには彼の秘密にしていたことが
書かれていました。
しげるの両親である
姉夫婦へ8,000万円の賠償金を
彼1人で支払っていたこと。
けどそれも全て終えたから
静一は静一の人生を
生きていってほしいと。
そして悪いのは全て俺だと言う
一郎の言葉は、静一にだけじゃなくて
静子やしげる、姉夫婦にも向けられて見えてた。
彼は1人で静子たちや
姉夫婦に挟まれて
背負いこんでいたようでした。
静一が自分自身のために
生きることが、一郎の願いです。
けど今の静一は
自分の死に方を考えていて。
ここにきても、一郎の願いは
彼に届いていませんでした。
それが残酷にも感んじています。
静一を動かそうとするのは
やっぱり静子で。
静子の住所や連絡先が
書かれていることを
知った時の静一の表情。
彼の表情を大きく変えるのは
良くも悪くも、いつも静子のほうなのです。
けどそれは燃やされて
東京に彼女がいることがわかるも
今の静一の気持ちが
変わることはありませんでした。
彼は本当に死ぬ気でいる。
けどまずは、一郎の最後の頼みの為に
ある場所へ。
そこは一郎の故郷であり
静一が育ったあの最初の場所でした。
そうしてお墓に骨を納めた
静一を待っていたのは
吹石 由衣子(ふきいし ゆいこ)との再会です。
彼女は中学の同級生であり
少しの間だけ彼女だった人。
けど今の彼女は
2人の女の子を連れた母でした。
全部終わったと
いなくなる方法を考えていた静一。
もう何もすべきことはないと
言う静一だけど、本当にそうなのか。
それに静一を二度見した由衣子の表情。
彼女も気づいているようでした。
目の前に由衣子が現れたことで
静一がどうなっていくのかが、気になる巻です。
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