【ネタバレ注意・あらすじ感想】『血の轍』14巻 静子との再会で蓋を開けてしまった静一
こんにちはの東です。
今回は『血の轍』第14集のことを書いていきます。
作者は押見修造(おしみ しゅうぞう)さん。
『ビッグコミックスペリオール』にて
2017年から2023年にかけて連載されていた作品です。
ぐらぐらゆらゆら。
父とお別れをした静一のところに
静子のことで警察から連絡が入ります。
蓋を開けなければよかったと
後悔するも、既に遅しでした。
ネタバレがあるので
それでも良い人だけ進んでください。
あらすじ
田舎に暮らす長部家は、3人家族でした。
静一に異常な愛情を注ぐ母の静子。
父の一郎は、物静かな人です。
最初は中学生だった静一も
今はすっかり大人に。
けど彼の頭の中には
静子や死んでしまったしげるが
存在し続けていました。
そして一郎が亡くなり
彼の願いを聞き届けた静一は
自分も死ぬことを考えます。
そんな時に、中学の頃の恋人
吹石 由衣子との再会がやってくるのでした。
登場人物
■長部 静一(おさべ せいいち)
中学2年生だった主人公は、36歳に。
父の一郎は亡くなり
由衣子や静子と再会を。
一気に起こる出来事に
彼は追い詰められてそうだった。
■田宮 静子(たみや せいこ)
長部の苗字でなくなった静一の母親。
久しぶりに登場した静子は
昔と変わらず、とてもキレイで。
それを普通のことのように
受け入れて、読み進めている自分に
後でハッとしていました。
■長部 一郎(おさべ いちろう)
静一のお父さん。
静子は一郎が死んだことを
もしかして知らないのかなと。
そう思ったら
なんだか悲しくなりました。
■吹石 由衣子(ふきいし ゆいこ)
静一の同級生であり
少しの間恋人だった人物。
彼女も大人に。
当時の由衣子にそっくりな娘を連れた
母になっていました。
■三石 しげる(みついし しげる)
静一のいとこであり
今は彼の頭の中にいる存在。
静一に死を促したり
彼の聞きたくないことまでもを
話してくるようになっていました。
しげるには静一の考えていることが
全部お見通しです。
これから先、静一が
どんなことをするのか、わかっているのか。
頭の中にいる、しげるとの結びつきが
強いのは確かでした。
感想
死ぬことに支配されていた静一と、由衣子の再会
父の長部 一郎(おさべ いちろう)が
亡くなり、お墓に骨を納めていた主人公の静一(せいいち)。
そこで中学の頃
少しの間付き合っていた
吹石 由衣子(ふきいし ゆいこ)との再会が待っていました。
けど彼女は2児の母に。
それを見たからなのか
納骨を終えたら死のうと
考えていたからなのか。
由衣子は気づいてくれたのに
彼女の声に答えることはなく
静一は、その場を去ってしまうのでした。
それで良いのかと思っても
「もう何も、未練はない。」と思う
彼の表情は、笑っているけど能面のよう。
夏の入道雲。
なのに薄ら寒いような
ゾワリとするものがありました。
家に帰ってきてからも
どうにかして死のうとする静一。
彼の視界には死んだいとこの
三石 しげる(みついし しげる)が
しょっちゅう現れます。
本当にそこにいるんじゃないかと
思えてしまいそうなくらいです。
静一の頭の中に、しげるは
昔の姿のまま、存在し続けていました。
そして彼は、静一が死ぬのを
今か今かと待っているのです。
けど静一が死ぬ直前になれば
寸前のところで止めに入る存在が。
それがしげると同じように
静一の中に今でも存在する
母の静子(せいこ)なのでした。
けど彼女は生きています。
頭の中の静子は、今も昔の姿のまま。
それかひどく恐ろしい姿になったりと
変幻自在でした。
死を促すしげると
死なせまいとする静子。
こう聞くと静子がいい存在に
見えなくもないけど
「なにかってなことしてるん?」と
頭上から頭だけ
ぶら下がっているような
静子の表情は、やっぱりヒッとくるものがありました。
彼女から逃げたいのに
静一の中に住みついている静子。
静子は昔のままの若さで
けどどんどん恐ろしくなっていきます。
静子から逃れるには、死ぬしかないのか。
けど死ぬことをジャマされ
静一はヤケになっているように見えます。
それが怒りや恐怖、歪んだ愛や
言葉にならないようなものでも
他の誰よりも静子が
一番に彼のことを動かしていたのでした。
昔のままの静一と、本当の姿をした静子の再会
ついにこの時が。
静子と静一が会うのは
静一の審判の時に
彼女が途中で退場させられて以来でした。
静子は静一の元を自ら去った人です。
それから静一は
静子を避け続けていました。
そしてこの再会で彼は
ようやく静子を、本当の姿で見ることになります。
それを彼は
蓋(ふた)を開けてしまったと
しげると話していました。
警察に静子のことで
呼び出された内容は
もちろん良いものじゃありません。
彼女はなんと、都心を徘徊していたようで。
話す内容も支離滅裂。
家賃も半年分を滞納。
更に自分に息子がいることも
忘れていたと思ったら
急に幼稚園に迎えに行かなくちゃと
慌て出したり。
普通の精神状態でないのは明らかでした。
大人になった静一を前にして
初めましての挨拶をする静子は
どう見ても、昔の姿のまま。
けど少しの間だけ
白髪な女性の後ろ姿が見えていたのは、なんだったのか。
それが読み進めていくことでわかります。
そこで静一に与えられた選択肢は2つ。
自分の家に静子を連れて帰るか
静子の滞納していた家賃と
これからの分も支払うか。
結局、静一は彼女を助けることを選び
生きなければならない理由が
できたように見えます。
けど静一が背負い
話が落ち着いたところで、彼の怒りは爆発。
暴力を前に
泣くことしかできない静子は
「わたしをころして」と。
またとんでもないことを言って
今度は可愛い子供の姿になり
泣きじゃくるのでした。
どこまで静一に背負わせれば気が済むのか。
子供を前に、振り上げた拳を
下ろしたものの
彼はようやく本当の静子と
対面することになります。
どうして静子だけ
時間が止まったように
キレイな姿のままだったのか。
どうして彼女の姿が
急に子供になったりしたのか。
それは現実の静子と
接していながら、昔のままの姿で
静一が彼女を見ていたからでした。
けどこれは静子の
見た目だけのことでしょうか。
彼女のしてきたことも
静一の頭の中で
まるで彼が被害者のようにして
書き換えられているだけなのではと
どんどん過去の出来事が蘇ってきます。
ずっと変わらず昔の姿のままで
描かれてきた静子が静一の妄想。
月日が流れ、変化した姿で
描かれていた静子が
本当の彼女であり
実際に起きた出来事だった
ということになります。
前は静一と静子の間で
矛盾した話が出てきても
その後の出来事に
途中で考えるのを放棄してしまいました。
けどこの巻では
静一が蓋を開けたことで
彼の頭の中で書き換えられていたことなのがわかります。
静子を悪者にして
全部彼女のせいで
今の自分はこんなに苦しんでいるんだと。
そう思うことで
真実から目を背けられたり
自分をギリギリ守ってきた静一。
それでも彼は自ら
命を絶とうとしていましたが。
頭の中で考えていることが
お見通しなしげるには
もう全部バレていました。
静一は、ずっと変わっていなかったのです。
本当の静子を
見ないように見ないようにと
していたのが、この再会を
きっかけにして崩れ始めていました。
過去の話を思い返して
また混乱するという。
現実をこう見たいと思う
静一のフィルターは
彼の思いの強さに合わせて
大きく歪められていたのでした。
本編の後の2ページに
押見修造さんの言葉が
ぎっしり書かれています。
蓋をするということ
この作品が生まれた理由や
現実と内側から出てきたものの
区別がつかないくらいに
静一にとっての現実が
混ざっていた理由が
押見修造さん自身のお話を通して
残されていました。
押見修造さんの思っていることが
静一と重なって、静一にとっての
現実を作り出していく様子を
自分は見ていたんだと。
グラグラした頭の中で、一本見えた巻です。
コミック
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