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映画『愚か者の身分』生きることを諦めなかった人たち【あらすじ感想】

小説・マンガ・映画感想

 
映画『愚か者の身分』を観てきました。

監督:永田琴
公開日:2025年10月24日
原作著者:西尾潤

原作は2019年に発売された同タイトルの小説です。

本作は西尾潤先生のデビュー作であり、第二回大藪春彦新人賞を受賞。

また映画は第30回釜山国際映画祭において

北村匠海・林裕太・綾野剛が3人揃って最優秀俳優賞を受賞し、話題となりました。
 

『愚か者の身分』のあらすじ


 
戸籍売買の闇ビジネスに手を染めていたタクヤ(演:北村匠海)とマモル(演:林裕太)。

2人は社会の裏を駆け回る時も、一般人に紛れてふざけ合う時もいつも一緒です。

互いに信頼のおける兄弟のような関係にありました。
 
それでもタクヤと違ってまだ不慣れなマモルに、タクヤは日々仕事の手解きをしていきます。

ですがある日、タクヤはまだ完全には染まり切っていないマモルと

裏の世界から抜け出すことを決意し

彼がそこに入るきっかけとなった梶谷(演:綾野剛)に助力を仰ぐのでした。

 

『愚か者の身分』の感想

タクヤとマモル・タクヤと梶谷のどこか似ている関係性

 
タクヤの身に起きたことの衝撃が強すぎて、途中体がガチガチに。

気付いたら力が入っていて

ゆったり観ることはできませんでした。

・・・

本作で描かれている世界に身を置かざるを得なかった人にこそ、届いてほしいのではと思う作品です。

そして、そうではないたくさんの人たちが

裏の社会で生きる若い世代の人がいるのを知ることも重要に感じました。

・・・

映画では主要人物3人のストーリーが描かれています。

タクヤとマモルの関係と、タクヤと梶谷の関係。

どこか似たところのある2つの兄弟のような関係です。
 
梶谷からタクヤ、タクヤからマモルへと受け継がれていくもの。

そしてマモルとの関係でタクヤの得たものが、今度はタクヤから梶谷へと流れていくという

タクヤを中心にして3人の間を循環していくものがありました。

・・・

直接的な関係のない人との間にも、人から人へと伝わっていくものから

映画のキービジュアルのような関係ができていくんだろうなと思う写真です。
 
映画を観る前に写真からイメージしていたものと

観た後に思うことが、まるで変わったキービジュアル。

この写真をしばらく見ているだけでも、鑑賞後にはきてました。

 

生き方のまるで違う人が共存している世界

 
生き抜くことって簡単じゃないです。

同じ時を生きていても

死を間近に感じて生きている人もいれば

死をあまり意識しないで生きていられる人もいます。
 
少し離れたところでは、ごく普通の日常を過ごしている人がいながら

タクヤたちは彼らからも逃れるようにして、身を潜めていました。
 
どんなに絶望的な状況に陥っても生きることを諦めなかった人。

それがタクヤたちです。

自分がタクヤで、周りに梶谷やマモルのような人がいなかったら

死ぬことを選んでいました。
 
置かれた状況に気付いた時のタクヤの絶叫。

彼を見ていて、死んだほうがラクだと思ってしまった時があります。

それでも彼は生にしがみついて、絶対に離すことはありません。

その力はどこから湧いてくるんだろうと。

そこには全幅の信頼を置ける人の存在がありました。

 

原作を読んだことで知れた作品のもう一つの側面

 
タクヤが全部を委ねた人物、それが梶谷です。

梶谷をもっと知りたいから始まった読書タイム。

そこから映画に描かれていないけど、実は裏で起きていたことを知れたのが大きかったです。

映画のラストで引っかかっていた部分が解消されました。

・・・

原作を読んで広がった『愚か者の身分』の世界観。

映画はタクヤたち3人を中心にして、お話が進んでいきますが

原作では3人の関わった人たち個人のストーリーも描かれています。
 
タクヤたちが戸籍売買のターゲットにしていたのが、実はどんな人物だったのか。

タクヤやマモルの視点で見るその人の印象と

原作で知るその人物の違いに、知らないって恐ろしいなと思いました。

・・・

また映画に映し出されているのと同じ時間帯に

その人たちがどこで何をしていたのか

それが映画にどう関わってくるかなど

映画から原作に進むことで、より大きな全体像が見えてきて楽しかったです。
 
これが原作を先に知っていて、映画を後に観た人はどう感じるんだろうって

自分はもう知れないので気になっています。

・・・

それと原作を読んでいて、知らなかった頃に戻りたいってなった部分もありました。

映画で描かれているところだけだったら

タクヤが被害者への罪滅ぼしのため、マモルに託したことが一つ成就するのですが

原作では、その後のエピソードが待っています。

映画で感動的な場面にも感じていた分、ショックが大きかったところでした。

未だにふつふつとしてきて、起きた出来事に落ち着くところが見つけられないでいます。
 
タクヤやマモルにはターゲットになった被害者の身に

その後何が起きたのかを知らずにいてほしいなと思うストーリーでした。

・・・

生きていると、知らないほうが良いこともあれば

無知が恐ろしいことも多々あります。

俯瞰して見れる側にいると、あれもこれもと手を伸ばしたくなるけれど

当事者だった場合、それはできません。

目の前に現れたことを、その時の状態でどう受け止めるのか。
 
受け入れるのが困難なことでも

後々、それも一つの通過点に過ぎなかったと思えるようには

とてもなれそうにありませんでした。
 
元を辿れば、全部が自身の招いたことではあるけれど

あまりにも重すぎて

その全体の本当の重さを、彼らも知りません。

そして見ている自分にも、全部を理解することはできません。
 
そうしたとても説明のつけられないものを抱えながら

どん底でも生きることを諦めなかった人たちの物語を

『愚か者の身分』から受け取っていました。

・・・

それと最後に、原作で登場した七夕。

タクヤと梶谷が観ていたテレビで、8月に行われる仙台七夕まつりの話題が取り上げられていました。

個人的なことになるけれど、前回の実写映画『秒速5センチメートル』を観た時に登場した天の川が強く残っていたので反応を。

身を潜めて生活しながら「今は願い事だらけだ。」という梶谷。

彼らの願いも、いつかどこかで叶ってほしいと思わずにはいられないラストでした。

 

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